家計管理と算数のセンス
金銭教育総合研究所 マネーじゅく 代表 陣内恭子
二〇〇八年と二〇〇九年の大きな違いが、講演会の依頼の内容に現れています。「家計簿」を前面に出した講演テーマに主婦が集まってくれるのです。節約のために、続かない家計簿をどうにかしたい、家計管理を学びたい、何かしらお得な情報がほしい、そんな参加者の気持ちが見えてきます。昨年前半はここまで意識は高くはありませんでした。
簿記の講師がこんなことを書いておられました。「簿記でつまずく人の六割くらいは、算数の力が弱い。」数学ではありません、小学生レベルの算数です。これ、家計管理に当てはめると、なるほどと思うところがあるのです。
昨年、ある団体向けにオリジナル家計簿を作りました。グループで見せ合ってもいいように、収入と支出をきれいに分けたレフィル式家計簿です。使い終わった通帳の口座振替と現金支出の一覧表作成から家計を推察する方法をとります。実生活が数字で見えるので、眺めるだけで次年度の予測ができます。家計のスリム化を図る必要があり、対策を考えたいと思ったときは、数カ月でも家計簿の記帳があれば役立ちます。対策は、自分で気づくのが一番。残念なのは、数字が並んでいても特徴に気づかないケースが多いことです。
講演会や勉強会などで話を聞いて役に立ったと思う人でも、ほとんどの場合、行動は変わっていないように感じます。それを何とかしたいと、こんな問いかけをします。「ワークシェアリングで、皆さんの家計に入る所得が三分の二になったらどうやりくりをしますか?」生き方を土台から考え直さなくてはならなくなっても「○○がないと困る」から「ない生活でも家計が成り立つ方法は?」という発想の転換は難しいものです。
個別相談に応じて多くの事例を見て分かるのは、生命保険や損害保険、各種金融商品のリスクを含め、一度でも未来の生活をシミュレーションしている人は、もしもの場合に次の動きに移るのが早いようです。生活を客観的に数字で見る力や数字から未来を推測できるセンスは、算数力と関係があります。いろいろな想定ができ、生活と数字が常に頭の中でつながる、数字で生活を考える習慣が家計管理の決め手。数字に強い男性がもっと家計管理に参加し役割分担をすることもまた家計管理がうまくいくコツかもしれません。